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ペルーの街のごみ問題、AIの力で解決目指せ——ピリカが挑む社会課題の最前線

 


ピリカ コンサルティングチーム マネージャー 土村萌氏
Image credit: PIRIKA

ソーシャルインパクトスタートアップのピリカが、南米ペルーの廃棄物管理の効率化に向けて新たな一歩を踏み出した。同社のAI技術を活用した路上散乱ごみの調査・対策システム「タカノメ」を、ペルーの地方自治体に導入する実証事業が進められている。今回、同社の土村萌氏にインタビューを実施し、プロジェクトの詳細や今後の展望について話を伺った。

大きなごみ問題を抱えるペルー

ピリカは、JICAと米州開発銀行グループ(IDBグループ)のスタートアップ支援組織である IDB Lab による、日本のスタートアップの中南米・カリブ地域への事業展開を支援するオープンイノベーションプログラム「TSUBASA」に参加。2024年3月から6ヶ月間のプログラムを経て、2024年10月から本格的な実証事業に向けた準備を開始した。

TSUBASAには、B to BまたはB to Cのビジネスモデルを想定するアイデア向けのBusinessコースと、B to Gのビジネスモデルを想定するアイデア向けのGovernmentコースの2つのコースが設けられている。ピリカは後者のGovernmentコースに採択された3社のうちの1社だ。

ペルーの都市部、特に大規模な市場が存在する地域では、廃棄物管理が深刻な課題となっている。日本のように定められたごみステーションがなく、住民はさまざまな場所にごみを出す。その結果、街中に大規模なごみの集積が発生している状況だ。

「朝には、住民の方や、食料・衣料品を扱う市場の関係者が、自分たちが出したごみを捨てています。その量は尋常ではなく、人の背丈ほどにごみが積み上がっており、まさに街中にダンプサイト(野積み場)があるような状態です。」(土村氏)


リマ市La Victoria区のマーケット周辺における早朝のごみ出しの様子
Image credit: PIRIKA

AIを活用したごみの分布調査サービス「タカノメ」

ピリカが提供するソリューションの中心となるのが、AI技術を活用した路上散乱ごみの分布調査サービス「タカノメ」だ。このシステムは、自治体の収集車やパトロール車に搭載したスマートフォンを活用して道路上のごみを撮影し、AIによってごみの種類や量を分析、マップ上に可視化する。

現在パートナーとなっているリマ市La Victoria区では、1日3回程度ごみ収集を実施している。夜間の収集で基本的に全てのごみを収集することを目指しているが、収集しきれないごみが残されることも多い。そのため、朝と昼にも追加の収集作業を行っている状況だ。

「タカノメ」は、こうした収集作業の最適化を支援する。具体的には、朝と昼の時間帯に1~2時間程度、複数台の車両に「タカノメ」を搭載して巡回し、ごみの分布状況を短時間で把握、マッピングする。この情報を基に、効率的な収集ルートの設計や、収集リソースの適切な配分を行うことが可能となる。


「タカノメ」
Image credit: PIRIKA

しかし、このシステムの実装には技術的な課題も存在する。特に、ごみの判別は簡単ではない。土村氏は次のように説明する。

「人間でもこれがただ置いてあるだけなのか、ごみなのかを判断するのが難しいケースがあります。現時点では、この判断基準をAIに学ばせるのは結構大変なので、まずは把握しやすい情報から始めています。例えば、明らかなごみの集積なのか、きちんとごみ袋に入れられた家庭ごみなのかなど、確実に判別できるものからデータを蓄積していきます。」(土村氏)

現在は、現地パートナーの協力を得て、AIの学習に必要なデータの収集を進めている段階だ。このデータを基に、AIの認識精度を向上させていく計画だ。

社会実装に向けて


Image credit: PIRIKA

現在、「タカノメ」のLa Victoria区への正式導入の目標は2025年7月に設定されている。この時期が選ばれたのは、2026年4月にペルー現地で選挙が予定されているため。選挙後は行政職員が交代する可能性が高いため、それまでにシステムの有効性を実証し、導入の判断を得たい考えだ。

「2025年7月までには意思決定したいとの意向が示されており、それまでに『タカノメ』の開発をアップデートさせて、現地で『これなら導入したい』と思っていただけるようなシステムにしていく必要があります。」(土村氏)

技術的な実証に加えて、ビジネスモデルの確立も重要な課題だ。ピリカは、将来的に自治体からの収入を得てビジネスとして事業を継続することを目指している。ただし、ペルーの自治体は海外企業との直接取引が制限されているため、現地代理店を通じた事業展開を検討中だ。

ピリカにとって、TSUBASAへの参加やその後のJICAからの追加支援は単なる資金支援以上の意味を持っていたという。

「JICAの現地事務所が存在することは大きな強みです。現地でのミーティングの設定がしやすく、アポイントも取りやすい。また、TSUBASAの事務局メンバーからのサポートもあり、パートナー先の開拓がスムーズでした。

私たちのようなスタートアップが海外展開しようとする際、現地とのコネクションがないと難しいところがありますが、そういったサポートがあったのは非常に良かったです。」(土村氏)

今後の展開


パートナーであるリマ市La Victoria区との協議の様子
Image credit: PIRIKA

現在、ピリカはリマ市の1つの区での実証実験に注力しているが、将来的には他の自治体への展開も視野に入れている。すでにJICAのサポートを受けながら、同様の課題を抱える他の自治体へのアプローチも開始している。

また、このプロジェクトはペルーに限らず、発展途上国における廃棄物管理の改善モデルケースとなる可能性を秘めている。土村氏は、ごみの問題は往々にして後回しにされがちだが、実際には公衆衛生や環境保全に大きな影響を与える重要な課題だと指摘する。

ピリカの挑戦は、テクノロジーを活用した社会課題解決の新しいモデルを示している。特に、現地のニーズに合わせたシステムの開発や、持続可能なビジネスモデルの構築を目指す姿勢は、今後の国際協力の在り方に示唆を与えるものだろう。

実証事業の成否は2025年7月までに明らかになる予定だが、その結果に関わらず、このプロジェクトで得られる知見は、他の発展途上国における廃棄物管理の改善にも活かされることが期待される。

ごみ問題は、経済発展に伴って世界中の都市が直面する普遍的な課題だ。ピリカの取り組みは、テクノロジーを活用した解決策の可能性を示すとともに、途上国における社会課題解決ビジネスの在り方についても、重要な示唆を与えるものとなるだろう。

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