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TSUBASA2023が始動。中南米・カリブ地域での開発課題解決に向けて、審査員が重視したこと

日本のスタートアップが中南米・カリブ地域におけるSDGs達成へ貢献することを支援するオープンイノベーションプログラム「TSUBASA」。三期目を迎えた2023年度は、18社からの応募を受け、その内9社が採択された。

今期は、過去二期での経験を踏まえて、プログラムがアップグレードされた。

まずは、今期より新たに、募集コースが「Businessコース」と「Governmentコース」の2つに分かれている。
前者では、IDB Labが重点を置く分野(Silver economy、EdTech、AgeTech、FinTech、ClimateTech、GenderTech、AgTech等)における革新的なソリューションを、後者では、JICAが実施している開発協力事業の効果増大や、個別事業に紐付かない場合でも現地政府に対する協力への革新的なアプローチの導入可能性を模索するためのソリューションを募集した。
また、中南米・カリブ地域におけるSDGs達成への貢献が十分に期待されるものの、提案内容のピボットが必要と考えられる場合のために、「アイデアブラッシュアップ枠」を新設した。この枠で採択された場合は、プログラム内でのメンタリングを通して提案内容のピボットの方向性を模索し、その方向性が早期に合意されればその後BusinessコースかGovernmentコースのいずれかへと進む可能性がある。

今期の応募プロポーザルの傾向としては、気候変動×農業分野での応募が半数を占めたことが特筆すべき点として挙げられる。また、Governmentコースの設置に伴い、廃棄物問題の解決や生物多様性の保全など、これまでのTSUBASAでは応募がなかった開発課題領域での提案があった点も大きな特徴であった。

【採択企業一覧】

採択コース 企業名 代表者名 所在地 応募プロポーザル
Business

コース

株式会社エンドファイト 風岡 俊希 東京都 植物内生菌による極限環境での高生産な農業・植林の実現
株式会社Koeeru 長野 草児 神奈川県 産学官共創SHEP(※1)マーケットプレイス「Mi Mercado Verde」のビジネス化
株式会社天地人 櫻庭 康人 東京都 衛星データを活用した水道管の漏水リスク管理業務システム
株式会社elleThermo 生方 祥子 東京都 閉山後の鉱山を電力源に変える:半導体増感型熱利用発電の実証(アイデアブラッシュアップ枠)
TYPICA Holdings株式会社 後藤 将 大阪府 コーヒー生産の温室効果ガス排出量可視化システムの開発実証及び標準化(アイデアブラッシュアップ枠)
株式会社TOKYO8
 GLOBAL
石田 太平 東京都 現地生産可能な植物活性剤で農家の収穫増や土壌炭素貯留増を実現(アイデアブラッシュアップ枠)
Government

コース

株式会社TOWING(※2) 西田 宏平 愛知県 バイオ炭向けの微生物培養技術を用いた土壌再生
株式会社バイオーム 藤木 庄五郎 京都府 スマホアプリ「Biome」を用いた市民参加型の環境生物モニタリング
株式会社ピリカ 小嶌 不二夫 東京都 AI×スマホ×車両を活用した路上散乱ごみの調査・対策事業

(※1)Smallholder Horticulture Empowerment & Promotionの略。JICAが推進する市場志向型農業振興アプローチを指す
(※2)TSUBASA2022採択企業。TSUBASA2022ではBtoBのビジネスモデルが検討されたが、TSUBASA2023ではその検討結果を踏まえたBtoGのビジネスモデルの提案としてGovernmentコースにて採択

審査員はどんなポイントに可能性を感じて、どんなアイデアを採択したのか。選考を行った4人の審査員からの講評を紹介する。

JICA 赤嶺剣悟氏

過去2回のTSUBASAでは、支援プログラム終了後は主にIDB Labによる実証支援に繋がることが期待されていたが、JICAとしても実証段階で採択企業の皆様のビジネス展開に何らか寄与できないかと考え、今期はGovernmentコースを新設し、実証支援のための予算も確保して臨んだ。同コースは「JICAが支援する協力事業の効果増大」または「国×特定セクターの課題解決」に資する提案を募集する初の試みであり、対象を一定程度絞ったことから応募数が限定的となる懸念もあったものの、ふたを開けてみると応募企業の半数程度がGovernmentコースに関心をお示しいただいた。同コースのニーズが確認できたことを喜ばしく感じるとともに、継続して実施していくためにも今期の支援プログラムとその後の実証段階で成果を出す必要があると身が引き締まる思いである。

今回の審査においては、これまで同様、民間ビジネスの観点と同時に中南米・カリブ地域の開発課題の解決に貢献する提案となっているかに加え、特にGovernmentコースでは中南米各国におけるJICAの取り組みと応募企業の提案がいかにスムーズに連携しうるかという観点を重視した。同コースでは今期は3社を採択したが、いずれもJICAが実施中又は検討中の政府間の協力事業において、民間ビジネスの観点からこれまでにない効果を生み出しうる提案であり、支援プログラムを通じて採択企業のビジネスモデルの具体化が進むことを期待している。また、来期の募集においては、今期以上に募集内容を詳細にお示しすることにより、JICAの協力事業に応募企業のビジネスモデルがいかに貢献できるかの判断がしやすくなるよう努めていきたい。

 

■ IDB Lab 竹内登志崇氏

今期は、地球規模課題である気候変動対策に関する提案が増加した。中南米・カリブ地域におけるベンチャーキャピタル業界においても気候変動対策投資への関心が高まっているが、日本のスタートアップも気候テック、アグリテック、ビオテックなどのソリューション開発に取り組んでいる点を心強く思う。また、過去2回のTSUBASAに比べて、パイロットの実証レベルより前のプロトタイプの実証レベルの提案も得られた点を嬉しく思う。日本のスタートアップによる革新的な提案が新たな市場において大きな開発効果を生む製品やサービスとして早期に結実するためには、イノベーションサイクルの初期段階から共創するプロセスも有効と考えている。

審査に当たっては、市場で十分な比較優位性のあるソリューションとして将来的なスケールアップが可能か、開発効果発現のための仮説設定は妥当かの2点を重視した。尚、持続的な開発効果発現を担保するためには、なるべく早期の現地生産も重要なので、日本から原料や半製品を輸出する前提の提案内容については、将来的な現地生産に関する考え方を確認させていただいた。

今回不採択となった企業へのアドバイスとして、事業化に先立つ実証自体に多大な初期投資を伴う提案については、どのように資金調達していく計画なのか、基本的な考え方を説明できる方が望ましい。また、革新的なビジネスによる持続的な開発効果発現を目指す場合、中南米・カリブ市場について単に新たな開拓販路というよりは、新たな生産拠点という目線で事業化を検討することが重要と考えられる。

 

■ B Venture Capital CEO 中山充氏

3回目となる今期も多くの日本企業の応募をいただいた。通算してみると、かなり多数の日本企業からご応募いただいているが、今回改めて感じたのは日本のスタートアップが持つ技術・ソリューションの幅の広さで、多岐にわたる業界・課題に対するソリューションが日本で開発されていることを改めてポジティブな驚きとして感じた。
また、TSUBASAは中南米・カリブ地域の開発課題の解決に寄与するソリューションに焦点を当ててはいるが、世界の他の地域でも活用できそうなソリューションも多々あり、昨今の日本のスタートアップエコシステムでの課題の一つとして挙げられている海外進出という点でのポテンシャルの大きさを感じた。逆に言うと、世界的に見ると日本市場が特殊な場合が多々あるとういことでもあり、こうして海外にチャレンジされることで日本では得難い成功事例を海外で作られるスタートアップが今後も引き続き出てくることを確信する機会にもなった。

審査においては、ソリューションの革新性や創出できる開発インパクトなど様々な観点で検討させていただいたが、海外、特に日本人の多くにとってなじみの薄い中南米・カリブ地域で展開するプログラムであるため、文化的背景が違う中で中長期に渡って活動を続けていけるか、そのモチベーションとなる成功事例を作るためにソリューションと現地市場・対象課題の整合性は非常に重要なポイントであり、そこにコミットいただける体制・熱意も定性的なものではあるが重要だと考えている。
中南米・カリブ地域への最初の一歩として本プログラムを活用いただければと思いつつ、中南米・カリブ地域での活動経験の有無や、その他新興国を中心とした海外での活動経験・体制の有無は実際に現地の開発課題を解決していく上で重要な要素だと考えている。その意味では、ご応募を検討いただく際に中南米・カリブについての情報に触れていただくこと自体が意味のあることだと思っており、また、自社で積極的に情報収集・分析をされている企業などはポジティブに審査させていただいた。

 

■ ドリームインキュベータ COO 細野恭平氏

TSUBASAも三期目。過去の二期で、もう中南米に関心のある企業はあらかた発掘してしまったのではないかと漠然とした不安があった。ただ、蓋を開けてみると、今回も質の高いベンチャーが多く集まった。毎回、ベンチャーの顔ぶれは違うが、遠い中南米・カリブ諸国の開発課題解決に本気で取り組もうとする日本企業が次々と出てくる潮流を非常に心強く感じる。10年前、グローバル市場に、しかも途上国に挑戦しようと思う日本発のベンチャーは数えるほどだった。AnyMindグループの十河さんや、五常の慎さん等、最初から途上国マーケットを前提に起業した起業家はごく一部だ。それが10年で、これだけ起業家に厚みが出てきた。いつか、このような挑戦者の中から、世界に羽ばたく企業が出て来てくれることに期待したい。

審査に関して、ビジネスモデルの可能性・完成度やJICAのプロジェクトにマッチするか、という点は他の審査員の方が当然見る。私は、それに加えて、経営者のタフネスさを重視した。何百という経営者と会ってきたが、スタートアップ、しかも途上国でのビジネスというのは、通常の何倍もの胆力が必要とされる。予め想定した通りに、ベンチャーの事業がいくことはまれで、多くのベンチャーが途中で事業をピボットして生き残る。途上国ビジネスなんて、最初は上手くいかなくて当たり前。それを乗り越えられるタフネスさを持っているかどうかが、途上国ビジネスを切り開いていく上では最も重要な要素だと思う。今回はそういうタフネスを持っている方々を重視して選考した。

 

中南米・カリブ地域におけるSDGs達成への貢献を志す9社のスタートアップが、6ヶ月間のチャレンジをスタートする。

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